HOME プロフィール 実績 お受けできる仕事 旅の写真 旅コラム お問い合わせ
バグラティ大聖堂・外観
旅コラム

ジョージアにある「元・世界遺産」の大聖堂

世界遺産 ジョージア

世界遺産は、その顕著な普遍的価値を失うと、ごく稀に取り消される(抹消される)ことがあります。「バグラティ大聖堂」は、そんな数少ない「元・世界遺産」のひとつです。

ジョージア西部の街クタイシにある「バグラティ大聖堂」は、11世紀に建てられた中世グルジア王国時代の傑作建築です。17世紀にオスマン帝国の砲撃で廃墟同然になりました。
破壊されていても、遺構から中世の構造・意匠・空間スケールが十分に読み取れ、当時の建築水準や宗教・王権文化をよく示していたことが高く評価され、近くのゲラティ修道院とともに1994年に世界遺産に登録されました。

その後、大規模な修復工事が行われます。
世界遺産において修復は禁じられていませんが、創建当時と同じような素材や工法を用いることが求められます。
ところがこの修復は、鉄骨などを用いた近代的なものでした。

現地を訪問したとき、これは確かにマズい……と思いました。
内部に入ると、11世紀の石造りの柱の上に、金属の柱が被さっているのです。
古いものと新しいものが、必然性なく混在していました。

バグラティ大聖堂・外観
緑の屋根は鮮やかで印象的ではありますが、近年の修復によるものです
バグラティ大聖堂・内部の柱
11世紀の石造りの柱に、金属の柱が被さっています。また聖堂内部にはエレベーターが設置されました。

なぜジョージア政府はこのような工事を進めたのでしょう。
政府が観光地化を目指して修復を急ぐあまりに、十分に検証せずに工事を進めたという説もあります。
もしかするとジョージアには創建時を再現するような十分なスキルも予算もなかったのかもしれません。
理念や将来的なビジョンがあったうえでのことなのか、少し調べてみましたが、はっきりとしたことはわかりませんでした。

そして2017年、バグラティ大聖堂は世界遺産から抹消され、ゲラティ修道院のみが引き続き世界遺産として単独で登録されることになりました。

されど、バグラティ大聖堂がいまだ住民の心の拠り所であることは十分にうかがえました。
丘の上に立ち街のどこからでも見えるシンボルとして、いまも多くの人が訪れています。

世界遺産の基準と、住民の信仰や誇り。
建築のオリジナル性を保つことと、近代性を取り入れること。
それを天秤にかける必要があるのかないのか。
簡単に答えの出ない問いを抱いて丘を下ったのでした。

コラム一覧 →